【ある休日】 359氏 どうして、こうなったんだろう?ため息をつくも、答えが出るはずがない。 戦争に勝つためだけに生み出された子供達。彼らは皆がニュータイプ、戦うための兵器として誤ったまま育てられ、死んでいった。 今、戦争は終わり、残された子供達の行方はわからない。大方、誰も分からない内に知られたくない大人達の手によって処分されてしまったのだろう。 だが、その内の一人が今ここにいた。たまたま、助けた少女が、そうであったのだが。 幸い、その頃の記憶は失っているらしい。が、その少女を助けた男 −ビリー・ブレイス− はそんな少女の育て方など、知る由もなかった。 「ねぇ、お兄ちゃん☆今日は何処へ連れてってくれるの?」 「あーカチュア、本当にオマエは元気だなぁ…」 「だってぇ、せっかくの休みだもん、お兄ちゃんと一緒に外に出たいよぅ」 「…んじゃあ、遊園地にでも行くか?」 「いいの!?やったぁ」 「そのかわり、あまりハシャギ回るなよ」 「ハ〜イ!」 カチュア・リィス。どうやら、その施設の出身らしい。彼女もまた、組織の手足となり、モビルスーツに乗らざるを得ない少女であった。 ビリーが撃破したときに運良く脱出した彼女は、記憶を失い、ビリーに保護されることとなった。 そしてそのまま、戦争は終結し、彼女もそのままビリーに引き取られる形となった。 それからの彼女はいたって順調に生活している。NTとしての力を記憶を失ったと同時に失ったこともあってか、戦闘マシーンではなく、一人のお転婆な少女としてのカチュア・リィスがいたのであった。 遊園地に行くと、見慣れた顔がそこにあった。 「あら、ビリーじゃない。久しぶりね」 「オマエ…誰だっけ?」 「それ、冗談?」 「イヤ…本当に分からないんだ、マリア・オーエンスさん」 マリアの問いかけに真面目な顔してかわしていく。 そんなビリーをよそに、マリアがカチュアに話しかける。 「久しぶり、カチュアちゃん。今日はどうしたの?」 「あっ、マリア」 「えーとね、ビリーお兄ちゃんと一緒に遊園地に来たの」 「あら、それはよかったね」 「ウン!」 「ねえカチュアちゃん、お姉さんも一緒に行ってもいいかな?」 「マリアお姉ちゃんならモチロン良いよ!」 「そう、ありがとう」 「ったく、強引な奴だな」 「良いでしょ?カチュアちゃんが言ってるんだもん」 「…しょーがねーなー」 その後、三人で色々なアトラクションを回る。 メリーゴーラウンド、コーヒーカップ、ジェットコースター…ビリーはそれらを楽しいとは思わなかったが、隣にいる二人の笑顔が何故だか心に残った。 最後に、観覧車に乗った。ゴンドラはゆっくりと夕焼けが綺麗な空へと近づいていく、がある程度まで近づいたところでゴンドラはまた地上へと戻っていく。 「エエーッ!もっと近くに行ってよー!」カチュアが悪態をつき、それを聞いた二人が苦笑する。 「カチュア、夕焼けが好きなのか?」ビリーがたずねる。 「うん。だって、綺麗でしょ?綺麗なものはワタシ、好きなんだっ」 カチュアが興奮気味に話す。 「だけどね…」俯くカチュア。 「なんだか、悲しい気持ちになるの。こぅ、胸がギュッって痛くなって…分かる?」 ふと、思い出す。あのとき、初めて彼女と会ったときも、空は綺麗な夕焼けだった気がする。 「ねぇ、お兄ちゃん、覚えてる?」 「ん、なんだい?」 「お兄ちゃんとワタシが会ったときも、こんな感じだったよね?」 「…ああ」 「どうしたの?」 「いや、別に?」 「なんかさ…」 「どうしたの、カチュア?」 「お兄ちゃんとお姉ちゃんってさ、好き?」 いきなりの質問、それもよく訳が分からない質問に黙る二人。 ただ、カチュアの目は輝きをもって二人をジロジロと見ている。 そんな中、マリアが口を開いた。 「私は…好き、かな?」 「ホントホント?ね、ね、お兄ちゃんは?」 答えにつまる。まさか、マリアがそんなことを言うなんて、夢にも思っていなかったからだ。 しかし、答えなきゃならない。その思いからボソっと呟いた。 「嫌い…じゃないな」 「じゃあ、好きってこと?」 その質問に口を開くことなく、首を縦に振るだけのビリー。 「やったぁ☆」 「何が『やったぁ』なんだよ」 「だってさ、ワタシも二人が好きだから!」 なぜだか、肩透かしを食らったような感じになる。 そのまま、観覧車は一周を迎えた。 「マリアお姉ちゃん、今日はありがとう!」 「カチュアちゃんも、勉強がんばるのよ」 「エエー、嫌だなあ…」 「好き嫌いしてたらいいこになれないよ」 「ハーイ…」 「で、これからどうするんだ?」 「まだまだ、やるべきことはあるのよ。とりあえず、復興していない町に行って、被害を調べるの」 「次はいつ帰って来れるんだ?」 「さぁね。アナタも来ればいいのに」 「おいおい、俺はもう辞めた身なんだから…」 「…それもそうね」 そして、マリアがそっとビリーに近づき耳元に囁く。 「あそこで話したこと、嘘じゃないからね」 赤面するビリー。 「じゃあビリー、またいつか会いましょうね」 そういって、マリアは去っていった。 「お兄ちゃん、どうしたの?」 「バカ、どうもしてねぇよ!」 「ウソだ〜。照れてるよ!」 「……」 今度会えたときは、自分の気持ちを言おう。 そして、こんな夕焼け空を三人で歩けたら良いな、 ビリーはそんなことを思いつつ、カチュアと帰路へと向かっていった。