【贋作・罪と罰】 4296氏 家の玄関から、僕は出た。 そこで急な吐き気に襲われた僕は、木の陰まで走り、胃の中にあったもの、その全てを吐いた。 「く、はっ…」 これで、 これで・・・。 僕は、 反宇宙連邦政府軍に拾われた、名無し子だった。 やがてNTであることが知られ、戦争に参加することを求められた。 どうにもできなかった。 死にたくなかった。 そんな時、 ジュナスさんは、僕らを連れて、逃げ出した。 ―ここにいちゃ、いけない― ジュナスさんはそう言った。 僕らは、Gジェネレーションズに迎え入れられた。 −戦争も終わる。落ち着いたら、君たちの親御さんを探そう− ガルン艦長はそう言ってくれた。 −コーヒー飲むか?− ドクさんは、そう言って思いっきり苦いコーヒーを入れて、僕らをからかった。 ―早く、子どもが欲しいなぁ― 僕たちを見て、マリア先生はそう言っていた。 ―お前くらいの弟がいるんだ― ルロイさんは、そう言って僕の頭を撫でてくれた。 みんな、優しかった。 安心できた。 嬉しかった。 その矢先の出来事だった。 エターナさんが、逃がしてくれた。 あの爆発から。 −シェルド・フォーリーを探しなさい。力になっ…− 最後まで言葉を聴くことは出来なかった。 結局脱出できたのは、僕ら二人だけだった。 一足先に陸に降りた三人の人たち。 クレアさん、一緒に遊んでくれてありがとう。 エリスさん、あなたのご飯、美味しかったです。 シェルドさん、僕はあなたの忠告を聞くことが出来ませんでした。 本当のシス・ミットヴィルである女性は、何も知らない普通の女の人。 実験候補体でありながら、博士の入れ替えによって強化手術を免れた。 今も、何も知らず、ラ・ミラ・ルナという名で、月軌道往還線のオペレーターとして普通に暮らしている…。 僕は、復讐を果たしました。 みんな。 みんな、優しかったのに。 あいつらが、 殺した。 みんなを。 殺した。 戦争を起こした理由が、 自分の娘を助ける為だけなんて、 許すことなんて出来ない。 みんな、生きていたのに。 「ここで逃げたって他に道はない………」 レイチェル。 反宇宙連邦政府軍で一緒だった。 「いっそ………何もかも消えてしまえばいい…」 シス…本当のアヤカ・ハットリ。 ゼノンの娘。 Gジェネレーションズにいた… 許すことなんて、 出来るわけが、 ないじゃないか。 人の気配を感じて振り向く。 シー・アウタック。 僕と共に脱出した女の子。 「終わったの…?」 僕は、頷いた。 「うん。終わったよ…」 ゼノンに付けられた昔の名前は、捨てた。 僕らはもう、ショウ・ルスカとカチュア・リィスじゃない。 15年前のように9歳と男の子と10歳の女の子じゃない。 「…」 彼女が、僕に近寄ってきてくれて、言った。 「…帰ろ」 「…うん」 僕と彼女が並んで歩き始めた時。 乾いた銃声と、人の倒れる音が響いた。 僕と彼女は、その音を無視して、車へと歩いた。 「自分の娘を助ける為に、戦争、起こしたって…」 僕は立ち止まる。 彼女が僕を見ている。 「そんなのって、ないよ…」 僕は、空を仰ぐ。 雲ひとつない、青く澄み渡った空。 この青空は、罪だ。 空に向かって、僕は吼えた。 彼女は、僕を抱きしめた。 僕らは、ずっとそうしていた。 ずっと…