【共に鼓動を聞く者たち】 343氏 宇宙の景色に呆然とするシェルド。 「…でも、さっきは上手く出来たんだ。出来ないことはない!」 瞬間、敵機がマシンガンを撃ち出す。 「え!?うわわ!」 慌てて下がりながら盾を構える。 「え、えっと、こっちも撃たな…、わあ!」 回り込んでのハイザックの射撃! 完全に翻弄されるアレックス。 シェルドは致命的な勘違いを二つもしていた。 それはシュミレーターではあくまでも一対一での戦いだったこと。 そして、相手のジュナスは一度も射撃で攻撃していなかったということ。 それだから勝利した戦闘で、自分に自信を持ってしまっていたのだ。 コクピッドに響く衝撃に混乱するシェルド。 装甲の厚いアレックスだから機体はまだ持っているが、 撃破されるのも時間の問題だった。 「ど、どうすれば!」 悲鳴を上げるシェルドに通信が入る。 「シェルドの大バカヤロウ!」 ジュナスの声だ。 「う、あ…。」 シェルドは安堵と恥ずかしさと、そして自分への怒りで何も言えなくなっている。 そこへ、ジュナスが怒った声で励ます。 「いいから戻れ!…なんていわねえぞ!出撃したらかには戦ってもらうかんな!盾構えてビーム撃ってるだけでいいから、援護しろよ!」 「……わかった!」 シェルドがむやみやたらにビームを撃ちだす。 ジュナスはハイザックの群れに飛び込んでいく! ハイザックは散開し、五機がアルビオンに向かう。 四機が、ジュナスを潰しにかかる! 「五つも行かせちゃったか!」 ジュナスは舌打ちしながらサーベルで一機をあっさり片付ける。 後方から多数のビームが飛ぶ。 ハイザックは上手く、ジュナスを攻撃できないが、 ジュナスのアレックスは網目のようなビームをかいくぐり、確実にサーベルで攻撃し続ける。 ジュナスには驚くほど、シェルドのビーム、ハイザックの動きが見えていた。 シェルドのめちゃくちゃなビームが止む。 エネルギーが切れたのだ。 しかし、その時には四機のハイザックは、全てジュナスが撃破していた。 「はぁはぁ…」 荒い息のシェルドにジュナスの通信。 「アルビオンに戻るんだ!今のアルビオンの右舷は…。」 「…わ、わかった。」 「ビームが切れたら右腕部のガドリングで攻撃しろよ。」 シェルドは正直、戻りたかった。 だが、こうなった以上、意地でも戻るまいと決めた。 「くそったれぇ!」 アルビオンの右に回ったハイザック五機が執拗に応急措置の装甲を攻撃する。 ドク・ダームは必死にけん制し、容易に近づけないようにしている。 ルロイもビームを連射するが、なかなか止めには至らない。 そこへ、ガドリングの連射が戦場を奔る。 シェルドのアレックスであった。 ブリッジにはクレアも来ていた。 「あ〜、も〜!」 モニタに攻撃されているシェルドのアレックスが映る。 「あたしのガンダムが〜!」 クレアが悲鳴をあげる。 「…アルビオンはそのセリフによっぽど縁があるみたいね。」 ブランドは独り言をつぶやき、ため息をつく。 ハワードは唸りながらつぶやく。 「…やるな、ジュナス・リアム。」 「え?」 ミリアムが疑問を持った表情でハワードを見る。 「だってそうだろう?あのシェルドとか言う少年のアレックスを帰艦させることなく、戦力にしてしまっている。なかなかの戦闘センスではないか。」 ミリアムがはっとした表情になる。 けん制という形で、確かにシェルドのアレックスは戦力となっている。 がむしゃらなで、でたらめとも言える攻撃が、相手をひるませているのだ。 と、ブリッジが揺れる。 ハワードもミリアムも座席にしがみつく。 他のクルーも同様だったが、クレアだけはすっ飛んで天井にぶつかる。 「いてて…、右舷弾幕薄いぞ!なにやってんの!」 クレアが錯乱して叫ぶ。 シェルドのアレックスのけん制により、ドクのハイザックがヒートホークに持ち替えて、攻勢に出る。 「ヒャハハハ!」 コクピッドに笑いを響かせながら、一機撃墜する。 怯む四機の敵にミサイルを開放し、さらに一機仕留める。 撤退し始めるハイザックに追い討ちをかけようとするドクの前にジュナス機がやってくる。 なにか通信が入ってくるかと思ったドクだが、何もなかった。 無言。 沈黙を破ったのはアヤカのアナウンスだった。 「もうすぐ、アンマンに着きます。非戦闘地域に入るので皆さん帰艦してください。」 ドクはジュナスに通信を開く。 「てめえだけ四機も落として楽しんでるんじゃねえよ。」 すぐに通信を閉じる。 ジュナスの身体がビクリと震える。 ジュナスはじわりと汗をかき、アレックスをアルビオンに向かわせた。 シェルドがハッチを開けると、クレアが飛び込んできた。 「ちょっとぉ!どういうつもりよぉ!」 クタクタのシェルドにはクレアの大声は堪えた。 ただ、シートに身を沈め、クレアの怒りが一息つくのを待つ。 「第一、なんであたしの機体なのよ!ジュナスやルロイのだっていいじゃん!…もしかして、あたしの残り香を楽しむために!?あ〜、シェルドのヘンタ〜イ!しんじらんないよまったく!」 まくし立てるクレア。 なかなか終わりそうにない。 「アレックス、大事に乗ってたのに装甲に傷がついちゃってるし!んも〜、シェルドがちゃんと直してよ!あたしだったら無傷で帰ってこれ…。」 クレアの声が途切れる。 俯いていたシェルドが顔をあげる。 前にはスタンがいた。 腕を引っ張り、無理やり座席から立たせる。 呆然と見守るクレア。 シェルドは無言のスタンから怒りを感じ取っていた。 (当たり前だよな…) スタンはシェルドの腕を取ったまま、ドレスルームに連れて行く。 そしてシェルドのヘルメットを脱がせると、そのヘルメットでシェルドを殴った! 「何考えてんだ、テメエは!」 強烈な一撃にシェルドは、うずくまって頭を押さえる。 「…すいません。」 「生きるか死ぬかの世界なんだぞ!お前一人の生き死にじゃない、クルー全体のだ!」 スタンの怒号にシェルドの沈黙。 そのドレスルームにルロイ、ジュナスが入ってくる。 「訓練もろくに受けてない奴が戦場に出てどうする!」 スタンの説教というにはあまりに強烈な怒りに、ルロイはフォローに入ろうとする。 が、ジュナスは制した。 「…やめとけよ。」 ジュナスの冷たい言葉がシェルドに届く。 シェルドは情けなさで涙が出てきた。 そして、自分の行いで友人に見捨てられたかのような気がした。 戦闘中のジュナスの声は厳しさがあったが、血が通った、ジュナスの思いが伝わるような叱咤だった。 だが、今の言葉はシェルドには冷酷な、突き刺さる言葉だった。 シェルドに一瞥すらせずに、ジュナスがドレスルームを出る。 ルロイが慌てて、それを追いかける。 スタンは涙で濡れたシェルドの顔を無理やり上げさせて、睨みつけた。 その後、シェルド・フォーリー伍長の独房入りが決まった。