【共に鼓動を聞く者たち】 343氏 デッキのハワードは次の指示をする。 「メガ粒子砲の準備をしろ!敵MSが回収され次第、攻撃する。射程を調整しておけ!」 デッキに緊張が走る。 「…敵MSが回収された直後ですか。容赦ないですね。」 ミリアムがつばを飲む。 ハワードは当然だと言わんばかりの表情で語る。 「月まで追いかけっこするつもりはない。それにMS隊だけ取り逃がして玉砕攻撃されたらかなわんからな。」 ブランドの額にじわりと汗がにじむ。 「発射準備完了です!」 続けざまにアヤカの報告が入る。 「アレックス、ハイザックの収容を完了しました。」 ハワードが気になることは敵のことだ。 「ガルバルディは?」 「まだ、宙空を。」 「ふむ…。」 「あくまでも収容してからですか?」 ミリアムの質問が飛ぶ。 「先ほどみたいに、母艦が潰されれば降服してくるのでは?」 ハワードは唸ると、アヤカにスタンを呼び出すように指示する。 「艦長?なんですか?」 スタンが呼びかけに応える。 「簡単な質問だ。今、母艦が沈められたらソニア・ヘインはどうすると思う?降るか?」 「いえ、死に物狂いで攻撃してきますぜ、あの女なら。姐さんは仲間思いで味方の命は大切にするが、自分が降ることはないっつー感じですかね。」 「…やはりな、そんな気がしたよ。オマエの元同僚という話と今の戦いを見てな。」 スタンは苦笑する。 「俺はソニアとはソロモンまで同じ隊でしたが、そんときに艦を落とされましてね。近くに他の味方の艦がなかったもんですから、こりゃまずいってことになったんですが、敵に降るって選択肢はなかったみたいで。無茶な特攻かけて、撃破されてますよ。そんときはグレッグも俺も止めたんですけどねぇ…。」 しみじみと思い出話をするスタンだが、今は心の底では安心していた。 新たなる仲間であるジュナス、クレア、ルロイ、ドクが全員無事なこと、 そしてかつての仲間、ソニアもグレッグも無事であることの二つの理由でだ。 だから、ハワードの次の言葉を聞いたとき、驚き、戸惑った。 「やはり、敵機がサラミスに戻った瞬間を狙ってメガ粒子砲だ。でなくば禍根を残す。」 顔をしかめながら同意するミリアム。 スタンが枯れた声で言う。 「…容赦ねぇですね、艦長。」 一方、ガルバルディのソニアは殺気が消えないことを懸念していた。 「各機、サラミスに収容します。」 フレイの通信に、ラナロウが舌打ちを打つ。 「俺はまだやれたぜ、くそ!」 「隊長の考えに同意できねぇのか?」 グレッグがラナロウを叱る。 「…うぜー、オヤジだぜ。」 ラナロウのつぶやきにソニアが少し笑った後、フレイの不服そうな声が入る。 「私も少し、以外です。少佐が敵を取り逃がすなんて。」 「やれやれ、あんたまでそんなことを言うのかい?」 ソニアはふざけた口調で言うが、アルビオンへの注意を向けたままだ。 「焦ることはないんだよ、今回は。ラナロウの実践訓練の相手にゃ丁度いいじゃないか。」 「なっ!ふざけんな!」 ラナロウがソニアに食って掛かるが、瞬間、ソニアの口調が真剣になる。 「…!何か、あるね。ラナロウ、グレッグはサラミスに戻りな。」 「え、少佐は?」 フレイの疑問にソニアが何事かつぶやく。 アルビオンのブリッジではタイミングを見計らっていた。 その時、巨大な隕石がサラミスのそばを通り過ぎ、一瞬視界から消える。 「…ちぃっ!」 ブランドの舌打ちの後、再び見えるサラミスの周りにガルバルディの機影はない。 「収容したか!メガ粒子砲、発射!」 ハワードの指示の直後、アヤカの悲鳴のような報告が入る。 「敵MS反応!そ、そんな!アルビオン右舷メガ粒子砲の砲身付近です!」 アルビオンのメガ粒子砲の近くにソニアのガルバルディがいた。 サラミスに近づいた隕石に隠れ、単独、回り込んだのだ。 「やっぱり、食えないやつらだね!簡単には打たせないよ!」 メガ粒子砲の砲身にビームを打ち込むソニア機! 「右の砲台のエネルギーを落として!」 「ダメです!間に合いません!」 ミリアムの指示にアヤカの悲鳴。 ブランドが歯噛みして、指示を仰ぐ。 「艦長、左だけでも撃ちますよ!」 ドウッ! 左の砲身からサラミスへ筒状の光が伸びてゆく! 瞬間、右舷が爆発を起こす! 「きゃあ!」 ミリアムが悲鳴を上げて倒れる。 ブリッジも大きく揺れ、オペレーター達は席にしがみつく。 「くっそぉぉお!」 ウッヒが気合一発、艦を立て直そうとする。 「死んでたまるかよぉお!」 なんとか、持ち直すアルビオン。 「報告を!」 ハワードの声が響く。 「ちっ!やるねぇ、アルビオン!」 ソニアはサラミスに視線を向ける。 「一本いっちまったかい!」 サラミスのダメージの大きさは見て分かる。 しかし、沈むことはなかったようだ。 「フレイ、もう少し上手くやって欲しかったが…、いや、よくやったほうかもねぇ…。」 素早く、自身もサラミスに戻る。 激しく揺れるサラミス艦でフレイは懸命に部下を叱咤する。 「落ち着け!メインの出力が落ちてないなら大丈夫だ!直ちに装甲に応急措置を!急いで!」 今だ、MSコクピッドの中のラナロウは苛立っている。 「くそっ!俺も一緒に行ってれば左右からの攻撃で、こんな目には遭わなかったのによぉ!」 グレッグはラナロウを馬鹿にする。 「アホが。単独だから気付かれなかったんだろうが。この程度で済んだのはさすが少佐ってところだ。」 ソニアのガルバルディがサラミスに戻る。 すぐさま、コクピッドから出て、ブリッジに向かう。 「グレッグ、ラナロウはそこで待機して、すぐ出れるようにしときな。」 素早く、移動するソニア。 ブリッジに着いても、慌ててるフレイは気付かない。 「派手に食らったねぇ…」 ソニアのつぶやきに、フレイが向き直り謝る。 「すいません…。」 ソニアは軽くフレイの肩を叩き、艦長席に座る。 「一度退くよ。」 「何処へですか?まさか…ジャブローに?」 フレイの言葉に笑うソニア。 「そんなわけないだろう。ルナ2だよ。」 「しかし、あそこから反逆者が出たんですよ。信用できません。」 フレイの言葉にソニアは考える。 「ルナ2全体が反逆者な訳ではない。むしろジャブローは神経質すぎるんだよ。なぜ、アルビオンは哨戒という隠れ蓑での脱出が必要だったのか。つまり殆どはエゥーゴの人間じゃないってことさ。」 フレイはうなづくが、さらに懸念することを話す。 「それでも、誰が裏切ってるのか分かりません。」 「…そうだね。それを調べるのも私たちの仕事になるだろうね。」 宇宙を睨むソニア。 アルビオンがMSを出す気配はない。 「グレッグ、ラナロウを休ませてやるか…。」 「少佐もお休みになっては?」 フレイの言葉にソニアは苦笑した。 「フレイ、アンタの方がよっぽど疲れて見えるよ。」