【共に鼓動を聞く者たち】 343氏 四機のモビルスーツがコロニーゲートを出たとき、 共にいくつかの閃光が見えた。 コクピットのジュナスにも緊張が走る。 「モビルスーツ隊は発進してください!」 「了解です!」 アヤカのオペレーションにジュナスが応える。 瞬間、ウィンドウにはクレアの顔が映る。 「初陣の時!だね、ジュナス〜。」 「ああ!やるしかないな!」 射出される3機のアレックスと一機のハイザック。 ハイザックに乗るドク・ダームにミリアムより通信が入る。 「敵、旗艦を落とすことに専念します!ダーム少尉はアレックスの援護をお願いします!」 「ガキのお守りだと!ふざけるな!俺が皆殺しにしてやるんだよ!」 「ダーム少尉、これは作戦です。そしてこの役割はベテランのあなたしか出来ない仕事です。」 「いちいち五月蝿いんだよ!ババア!」 「な、なんですってー!?ちょっと…」 ドクは回線を一方的に切る。 (一年戦争以来の公の殺しがガキのお守りとは…) ドクは苦みばしった表情でアレックスの背後につける。 「ルロイ、ジュナス。クレア、聞こえるな?」 各々のアレックスのコクピットにスタンの声が聞こえる。 「これはアドバイスだ。アレックスの反応性能ならば、敵の艦に接近することは可能なはず。上手く取り付いて攻撃しろよ。」 「わかりました、やってみます!」 ルロイの気合の入った声が聞こえる。 「は〜い♪」 クレアは呑気な声を出している。 ジュナスはクレアのそういうところは本当に救いだと感じた。 「よし、やるぞ!やるしかないんだ!」 グリーンのハイザックが群れる奥にみえるサラミスに向かい、突っ込むアレックス! ハイザックがこちらの動きに気付き、リックディアスから標的を変更する。 初弾はクレア機で、ビームがハイザックをかすめる! さらに、後方の連邦カラーのハイザックがマシンガンでけん制する。 敵ハイザックがルロイ機へのマシンガン連射を開始するがルロイは反撃することなくそれを避ける。 三体の敵をかわして、敵艦に取り付く! 主砲をビームサーベルで切断する。 そこへ、敵ハイザックが迫る! 「このおぉぉ!」 かろうじて、ヒートホークの一撃を避ける。 攻撃を避けられたハイザックが方向転換した瞬間、交差するように白い機体が通り過ぎる。 そして爆ぜるハイザック! 初めて、敵を撃破したジュナスは荒い息で、辺りを見回す。 敵艦ブリッジを確認して、躊躇う。 そこへ、ハイザックのマシンガンが迫る。 「クッ!」 シールド防御でやり過ごす。 「何してやがる!」 ドクの声がコクピットにこだまする。 ドクはミサイルポッドを開放! さらにミサイルで的確に一点に敵を追い詰めていく! クレアは誘導された敵に向かい、立て続けにビームサーベルで切りかかる! 二つの爆発。 ジュナスは再び、サラミスに向かい突撃する。 ルロイが横に並ぶ。 「ブリッジは切るなよ!」 「分かった!」 ジュナスの悲鳴に近い要望に応えるルロイ。 二人はサラミスを真っ二つに切り裂く! 切り落とされた前部が小爆発し、ブリッジの残る後部が救難信号を出す。 サラミスを旗艦にしていたハイザックが降参の信号を発信する。 「…よし!」 ジュナスがホッとする。 他の部隊は新型ガンダムとリックディアスが片付けている。 「ごくろうさまです!皆さん帰艦してください。」 アヤカの声に安心するジュナスにクレアから通信が入る。 「やり〜、撃墜しちゃった!スコアって奴が付くのかな〜♪」 笑顔をクレアに返すが、複雑な感情がジュナスの心を占める。 初めて、人を殺してしまったのだ…。 そこへ、突然の爆発が確認される! 「え!?」 クレアの驚きの声が聞こえる。 爆発したのは降参したはずのハイザック。 そして、それを攻撃したのは青の連邦カラーのハイザック、ドクの機体だった。 「ヒャハハハハ!久々だぜぇ!きれいなもんだな、オイ!」 不愉快なドク・ダームの声がアレックスのコクピットに入ってくる。 ジュナスはただ、唖然としていた。 騒然とするブリッジ。 「た、確かに降服信号を受けてました…。」 アヤカが動揺したまま、報告する。 「なんてやつなの!」 ミリアムが怒りをあらわにし、ブランドも明らかに不快である表情をする。 「…四機を速やかに回収しろ。」 ハワードの指令に、ミリアムが抗議する。 「三機で十分です!あんな、殺人狂はいりません!」 ブランドもうなづく。 「不快だわ。」 しかし、ハワードはもう一度繰り返した。 「四機を速やかに回収しろ!」 「…了解。」 ブランドが返答し、通信に入る。 ハワードはミリアムを見て、注意を促す。 「大尉、落ち着きたまえ。ドク・ダーム少尉の働きは素晴らしいものだった。新兵のサポートを的確に行っていた。」 「だから、降服機を撃ったことを見逃せというのですか!」 ミリアムはさらに抗議する。 「あいつは殺人狂です!エゥーゴにはいらない人間です!」 ハワードは恫喝した。 「それではジオンやティターンズの選民主義と同じだぞ、大尉!」 ミリアムはたじろぎ、俯いた。 「少尉は帰還したら厳重注意だ。いいな、大尉?」 「…了解しました。」 ハワードはブランドに目を向ける。 ブランドは報告する。 「MS隊の回収を完了しました。」 ハワードは立ち上がると、MS格納庫へ向かう。 ミリアムも続いた。 MS格納庫にパイロットたちは戻ってきた。 「おう、おつかれ!」 スタンの声だけが明るく響く。 ジュナス、ルロイは俯き、沈黙している。 クレアは気まずい雰囲気を察して黙っており、 ドクはニヤニヤと笑っている。 そこへ、ハワードとミリアムが入ってくる。 ジュナスはヘルメットを脱ぎながら、ハワードのところへ向かう。 シェルドらメカニックもハワードを中心に集まっている。 「ご苦労だったな、特に三人は初陣にしては上出来だ。」 「…ありがとうございます。」 ルロイは返答する。 ハワードはうなづいて続ける。 「…で、ドク少尉、少し訊ねたいことがあるのだが?」 「なんだい、おっさん?」 ドクは薄ら笑いを止めない。 ミリアムはそれを見て怒りに肩が震えている。 スタンはそんなミリアムを見てため息をついている。 「少尉は降服した敵機に攻撃をしたように見えたが?」 「ああ、そうだな。」 ハワードの問いにドクはあっさり応える。 「では、なぜ攻撃したのかな?」 ドクは鼻で笑うと、応えた。 「俺は一年戦争も生き抜いてきた。その中でなぁ、敵を捕虜にするようなこともあった。だが、そういったモノはろくなもんじゃねぇ。敵に自軍の内部を見せるってのはスパイを手招きしてるようなものだぜ。そういった捕虜のせいで壊滅したり、窮地に陥った部隊を俺は知っている。だから、早めに殺しといたわけさ。」 「なるほどな…。」 ハワードの返事を聞くとドクは得意げに言った。 「素晴らしい戦術眼だろ、ヒャハハハ!」 ついに、ミリアムはこらえきれなくなった。 「あなたの考えは戦術じゃなく、虐殺です!」 ドクは笑ったままだ。 ハワードはミリアムを抑え、言う。 「よく分かった、ドク少尉。君の新兵へのサポートは見事だった。では、メカニック諸君、整備を頼むぞ。すぐに第二波が来るだろう。」 「か、艦長!」 ミリアムは怒りが収まらない。 ジュナスも内心はミリアムと同じだった。 無抵抗の人間を攻撃するなんて、どうかしてると思う。 笑うドクを睨みつけながら、ジュナスはドレスルームへ向かっていった。