【共に鼓動を聞く者たち】 343氏 アヤカの声が艦内に響き渡る。 「発進10分前です。総員、配置についてください。」 新兵三人組はその声をMS格納庫で聞いていた。 「配置って、俺ら何処だろ?」 ジュナスの疑問にクレアは肩をすくめる。 ルロイはガンダムを見たまま言う。 「ま、すぐに乗れる場所にいればいいんじゃないかな?」 「じゃ、ここでいいのか。」 そこへ、緊張した顔のシェルドが通りがかる。 「お〜い、シェルド〜。」 パタパタと手を振るクレアに気付き、軽く手を上げるシェルド。 「なに、あれ?」 「はぁ?」 「いや、なんでこっちにこないのかなぁって。美少女の呼びかけにあの反応はないよね〜。」 「仕事があるんじゃないのか?」 ルロイが適当に反応する。 ジュナスはそこでルロイに突っ込む。 「おいおい、ルロイ、そうじゃないだろ〜。問題はクレアが美少女でもなんでもないというところ…、ゲフゥ!」 クレアの膝蹴りがジュナスの腹にめり込んだ。 ブリッジではニキからハワードに通信が入っていた。 「…それでは、よろしくお願いします。」 「ああ、行って来ますよ。」 ブランドの声がブリッジに響く。 「オールグリーンです、艦長。」 「よし、アルビオン、発進だ。」 「了解!」 ウッヒ・ミュラーが舵を取る。 宙に浮いたアルビオンは滑るように、ゲートを進む。 そして、暗闇と星の世界が広がった。 「艦長…。」 スタンがブリッジに来ていた。 「いよいよですね。」 「ああ、いきなりの大勝負だよ。君のことは信じているがね中尉。」 ミリアムが艦長席の横で身を強張らせている。 「大尉、君のことも信じている。」 ハワードの言葉にミリアムはゴクリとつばを飲む。 「ええ、このクルーたちは信じれると思いますよ。」 通信席のアヤカはブランドにコソコソとはなしかける。 「何か話してるんですかね…?」 「さぁね…。」 ハワードは少し、深呼吸をした。 (年甲斐もなく緊張している…。) しかし、それも当然だと感じた。 機密保持のため仲間をも欺いた形なのだから。 だが、スタンもミリアムも感じてはいたようだ。 ハワードは告げた。 「ミュラー軍曹!進路をサイド7、グリーンノアへ!」 「…!!」 ブリッジクルーが皆、驚いた顔を浮かべる。 「へ?只の哨戒任務じゃないんですか?」 アヤカはハワードの顔を見る。 ミリアムが立ち上がり、何か言おうとするがすぐにハワードが制した。 「ミュラー軍曹、返答は?」 「…ハッ!進路をサイド7、グリーンノアへ、了解!」 「…よし、スタン、MS格納庫にもどれ、ブリッジから艦内全体にこれより放送を流す。君がメカニック及びパイロットをなだめ…、説得してくれ!」 「了解です!」 スタンはブリッジを出る。 「ミリアム大尉、まずはブリッジからだ。話をさえぎってすまなかったな。言ってくれ。」 「りょ、了解!え、あ、…諸君!これよりこのアルビオンは正式な連邦軍の艦ではなくなる!」 「えぇ!?」 「ちょっと、どういうことよ!」 アヤカの声にブランドの声が重なる。 ミリアムは自分の手が震えていることに気付いた。 だからこそ、さらに強い口調で続けた。 「現在、連邦軍の中枢はジオン残党を討伐するという名目でスペースノイドの迫害を推し進めるティターンズに牛耳られつつある!私たちはこのことに対し、大いに抗議すべきではないか!その声を一つに集めよう!私たちはエゥーゴに参加する!この艦はエゥーゴに属することになる!」 ミリアムは言い終わって、足も震えてることに気付いた。 そして、自分の情けなさに泣きたくなった。 でも、まだ今はダメだ。 そこへハワードが続いた。 「諸君たちが現在の地球連邦のやり方に必ずしも納得がいっていないことを、調べさせてもらった。そして、その実力もだ。君たちにエゥーゴに参加してもらいたい。意義のある者は、今すぐに出よ!」 ハワードは内心、ここで異議が出たらどうしようかと思った。 それでも今はニキの働きを信じるしかない。 そこへ、アヤカが立ち上がった。 「アヤカ・ハットリ、エゥーゴに仕官します!」 ブラントは突然のアヤカの行動に戸惑った。 それを察したのか、アヤカはブラントを見て小声で言った。 「私もスペースノイドだしね…、今の軍の空気はあんまり居心地良くなかったんだ…。それにカッコいい人もいないし」 それを聞いてブラントは笑い、そして立ち上がった。 「ブランド・フリーズ、エゥーゴへの参加を希望します!」 そしてアヤカにウィンクした。 「確かに、今よりはエゥーゴのほうがカワイイコいそうよねぇ。」 そして、ウッヒ・ミュラーに一堂の視線が集まった。 ウッヒは何も宣言しなかった。 ただ、こういった。 「グリーンノアへの航海を続けます。」 ハワードは皆に頭を下げた。 「ありがとう。」 皆に笑顔が広がる。 ミリアムがへなへなと座り込んだ。 自分の胸を押さえ、震えている。 「ご、ごめんなさい艦長…。ち、力が入らなくて…。」 ハワードは彼女に手を貸し、身体を支えて指揮官席に座らせた。 「さて、次は艦内放送だな。」 アヤカが心配そうに艦長に訊ねる。 「大丈夫…、でしょうか?」 「君たちみたいのばかりならな…。」 ハワードは再び、気を引き締めた。