【世紀末武闘伝 シャイニングガンダム】 Fire氏 最終話「シャイニングガンダム大勝利!」 マーク・ギルダーは、中央広場にいた。女神像の前でたたずむその姿からは、この地を支配するキングの威圧感は感じられない。だが、その背中には、一抹の寂寥感が漂っていた。 「キングよ!」 大将軍ハワードがその背中に敵意を向けていた。すでに自らの機体に乗っており、何体ものデスアーミーを従えていた。グランドマスターガンダム――その巨体は何q四方もあるこの広場でさえ、目立つ程の存在感だった。 「どうした、将軍?」 ギルダーは振り向くと、嬉しそうに微笑んだ。 「貴様のやり方には、うんざりだ。貴様にキングの資格などない。貴様を倒して、軍団を再建し、我々のやり方でこの地を支配させてもらう」 「それは、また大きく出たな。強者に寄生するしか能のない雑魚どもも、ようやくやる気になったと見える」 「何とでも言え。どちらにしろ、貴様の天下も終わりだ」 「何やら、自信があるようだが、何をどうすればそんなに強気になれるのか、教えてもらいたいな」 ギルダーは、指をパチンと鳴らした。 「知っているぞ。貴様は手形の男に苦戦したらしいではないか。ならば、これだけの戦力を揃えれば、勝機は充分にある」 そして、空から降りてきたマスターガンダムに飛び乗った。 「なるほど、ならば試してみるがいい」 マスターガンダムが悠然と構える。 デスアーミーが一斉に何かを投擲した。 「なにっ!?」 マスターガンダムは、爆発の渦に巻き込まれた。爆発が治まると、そこには何十発ものクラッカーによる手榴弾攻撃で、跡形もなくなった荒れ地があるだけだった。 ハワードは狂喜の声を発した。 「やったか! さすがのキングも、囲んで袋叩きにすれば、どうということはないな」 「残念だったな」 「何だと!?」 驚いて、声の聞こえた方を仰ぎ見ると、空中に待避したマスターガンダムが両腕を組みながら、直立していた。 「この程度か。ならば、今度はこちらから行かせてもらおう。貴様らの限界をこの俺に見せてみろ!」 マスターガンダムが動き、流派“南方不敗”の型を披露する。まるで機械のように精密な動きで、型をなぞった。 「酔舞! 再現江湖! デッドリーウェイブ!」 マスターガンダムが残像を残して突進する。流れるように分身が駆けめぐり、周囲一帯のデスアーミーを1機、また1機とぶち抜いた。 「散ッ!!」 マスターガンダムが動きを止めたとき、すべてのデスアーミーが一斉に崩れ落ちた。 「こんなものか。この程度で武闘家とはな、笑わせてくれる。とるに足らない雑魚どもが……恥を知れ!!」 ギルダーは、ゆっくりとハワードの方に向き直った。 「さあ、おまえは俺を満足させてくれるんだろうな?」 「クッ! ならば喰らえ!!」 グランドマスターガンダムの頭部にあるマスターガンダムもどきが両手を前に突き出した。マニピュレータから、黒々とした闇の波動が生まれ、ギルダーのマスターガンダムに向けて撃ち出された。 「ダークネスフィンガァァー!!」 だが、好調に突き進んでいたその波動は、マスターガンダムの手前で停止した。 「バカな!」 ハワードの放ったダークネスフィンガーは、ギルダーに片手で受け止められていたのだ。ギルダーが生成した闇の障壁に遮られ、完全に攻撃を防がれていた。 「どこでおかしな話を耳にしたかは知らないが、噂を鵜呑みにすると後悔するぞ……もう遅いがな」 マスターガンダムが最終奥義の構えに入った。背中の両翼が開き、青白のオーラに包まれる。腰を落とし、緩やかに右手を突き出すと、一気呵成に撃ち放った。 「石破ッ!天驚拳!!」 巨大な黄金の右手がグランドマスターガンダムへ命中し、爆発で粉々に打ち砕いた。 「ぐぁぁぁぁぁ!!」 断末魔の叫びをあげてハワードが消滅した。 「この程度か。つくづく、救いがたいカスどもだ……アキラよ、早く来い」 ギルダーの頭の中は、赤毛の男の事で一杯だった。 日が暮れ始めていた。マスターガンダムが独り立つ広場へ、背中に夕陽を背負いながら、いざ、決戦へとおもむく武者の姿があった。 復讐、正義、一見相反すると思われる2つの思いを混在させた光の戦士はついに、仇敵に辿り着いた。 「ギルダー……」 「アキラか、待っていたぞ」 「エターナはどこだ?」 この期に及んでも、まだアキラは、かの女性のことが頭から離れなかった。裏切られたとはいえ、結果的に自分は救われた。これ以上望むことは、ただ生きてさえいてくれれば良い。 そうしたアキラの思いを嘲笑うかのように、ギルダーは冷徹に告げた。 「死んだよ……」 「――――――なに?」 アキラは咄嗟に反応ができなかった。 「俺が殺しを命じた。あの女、貴様を生かすために演技をしていやがったからな。散々、部下どものなぶりものにさせた後、殺すように命じておいた。バカな女だ」 「き……き……貴様ぁぁぁぁぁ!!」 「さあ、存分に殺し合おう。我が友よ、貴様の限界を見せてくれ」 シャイニングガンダムは、なりふり構わず突貫した。マスターガンダムもこれに応じる。 「ガンダムファイトォォォッ!!」 「レディィィィ!!」 「「ゴォォォォ――――――ッ!!」」 互いの機体が衝突した。ショルダーを擦りあてるように、体当たりで押し合い圧し合いを繰り返す。 2機が離れたかと思うと、再び激突し、今度は小技の応酬を繰り返す。正拳、裏拳、肘打ち、手刀、頭突き、膝蹴り、前蹴り、回し蹴り、踵落とし、跳び蹴り。 幾百も幾千も技を繰り出し、いつ果てることもなく力を放出する両者の姿は、端から視る者があれば、仲の良い弟子の稽古にも思えただろうか。 たとえ、憎んだ果ての戦いであったとしても、それほどに戦う者の姿は、壮麗たる美を極めていた。 「ギルダァァァァァァ!!」 シャイニングガンダムが赤いオーラに包まれ、装甲が全開した。 「俺のこの手が光って唸る! 悪を倒せと輝き叫ぶ!」 「そうだ! もっと怒れ! 怒れ! 怒れ! 怒れ! 怒れ! 貴様の力を俺に見せてみろ!!」 シャイニングガンダムの手に、光り輝く長剣が生成される。だが、マスターガンダムの手にも、闇色に染まる大剣が握られていた。 「シャァァァイニング! フィンガァ――ソォォ――――――ド!!」 「ダァァ――クネスッ! フィンガァ――ソォォ――――――ド!!」 光の剣が振り下ろされ、闇の剣が斬り上がる。互いの剣が衝突し、均衡した。 「グハァッ!」 「ヌゥゥッ!」 つばぜり合いをしながら、それぞれが互いの魂を剣に込めて、押しのけようと力を入れる。大気はスパークし、大地には亀裂が奔った。 「これは!?」 その時、アキラの脳裏に、ギルダーの心が流れ込んできた。 それは、とある修行の風景。 「師匠!」 ギルダーは師匠を目標に、ただ強くなりたいと願っていた。 それは、師匠殺しの罪。 「俺は、強い!」 DG細胞に感染し、無敵の強さを手に入れたギルダーは、師匠を殺めた。 それは、孤独の世界。 最強となったギルダーの目標とする者は、存在しなかった。 段階を経ず、いきなり強くなったギルダーに、己との戦いに目を向けることなど、無理な話であった。 そして――、 「エターナよ」 ギルダーの傍には、先程までマスターガンダムの両掌に乗っていた女がいた。今は、大地に降り立ち、とある海岸にいた。 「もう、安い芝居は必要ない。俺は目的を達した。どこへでも行って、暮らすが良い」 「あなたは……なぜ、こんな事を?」 「答える必要はない。だが、くれぐれもアキラを探そうなどとは思わぬことだ。ジョーカーよ!」 「ハッ!」 瞬きほどの間で、背後にジョーカーが出現した。 「しばらくは、おまえが護衛に付くのだ。この地ならば、アキラと出会うことは無いだろうが、同時に見張りであることも忘れるな!」 「かしこまりました」 ジョーカーは、うやうやしく頭を下げた。 ギルダーは、久しぶりに笑顔になった。 「あなたには、幸せになって欲しい。俺の姉さんでもあるのだからな」 「そうか……」 アキラの眼には、涙が浮かんでいた。 「おまえが、最も欲していたのは、強敵だったんだな」 互いに競い、高め合う強敵。それがギルダーの唯一望んだものだった。 シャイニングガンダムが青白いオーラに包まれた。第3のスーパーモード、哀しみのスーパーモードが発動した。 「だが、それでもおまえのやってきた事を許すことはできない」 今こそ、最終奥義を放つとき。アキラはゆっくりと技の構えに入った。 「流派“北方不敗”の名の下に! 俺のこの手が光って唸る! おまえを倒せと哀しみ叫ぶ!」 青いオーラを纏った2機のガンダムが、鏡のように対となって最終奥義の動作を行う。膝を曲げ、姿勢を低く、弧を描くように右手を突き出す。 「最終奥義! 石破ッ! 天驚けぇぇ――――――ん!!」 右手を形作る、黄金のオーラの塊が同時に放たれ、中央で衝突する。その衝撃の中、周囲一帯がまばゆい光で満たされた。 その日、街全体を覆ったその聖光は、一昼夜の間、輝き続けた。光がおさまった時、そこにガンダムの姿を見た者はいなかったという。