【世紀末武闘伝 シャイニングガンダム】 Fire氏 第9話「丸太のタカ派(後編)」 キングの新兵器部隊はアキラの居場所を探っていた。だが、敵は少数。闇雲に探しても警戒網を通過されて、首都に進撃される危険があった。 「そこで、天才の僕は考えたわけだ」 ユリウスは自信満々で語り出した。 「ほう、それで少しはまともな案なんだろうな」 ニールが疑いの眼差しでユリウスを見た。 「当然! 手形の男は愚かにも、正義のヒーローの真似事をしてるらしい。だから、付近の村を全部焼き尽くす、それでおびき出す、おしまい。我ながらシンプル・イズ・ベストな作戦だ」 「……確かに、奴のこれまでの行動なら可能性はある。おまえにしては、まともだな。いつもそうなら文句はないんだが」 村を焼けば火災で目立ちやすい。絶好の目印になる。発明以外に関しては、比較的まともなユリウスだった。世紀末において、村を焼くのは日常茶飯事である。ましてやここは大陸だ。 「それで、どこを焼く? なるべく目立つ場所が良いな」 「それもすでに候補は見つけてあるんだ。それじゃあ、行ってみようか!」 二人はバギーに乗りながら、目的地へ向かった。もちろん、後ろには新兵器を運ぶ牽引車が追ってきた。 「さあ、着いたぞ!」 ユリウスは嬉しそうに叫んだ。ユリウスが選んだ街は、城塞都市だった。街の周辺を外壁がぐるっと取り囲んでおり、難攻不落の要塞を思わせる。 「おまえ、わざと選んでないか?」 「偶然偶然、新兵器のテストにぴったりの条件だね。さあ、野郎ども! あれを用意しろ!」 「へーい!」 ユリウスの命令に従ってモヒカンが動き、大砲が設置された。世紀末らしい前装砲である。 「……おい、まさかとは思うが、あれか?」 「そのまさかさ。城塞攻略には、これしかないでしょ」 「やっぱりか」 どうやら、また頭痛の激しい事になりそうだった。ニールは額を抑えた。 モヒカンが、砲先から薬包を入れた。更に木座を入れてラマー(木の棒)で奥まで押し込む。最後に、導火線の付いた砲弾を抱えたモヒカンが、自ら砲口内に入った。 別のモヒカンが砲に空いている小さな穴から、錐を用いて中の薬包に穴を空ける。そこに点火線を差し込んで終了である。 準備が完了すると、モヒカンの一人が歩み寄って敬礼した。 「ユリウス様、準備ができました」 「うん、始めてくれ」 「目標、右30度、距離200!」 「目標、右30度、距離200!」 観測班からの報告により、モヒカンが復唱してハンドルをまわし、砲の角度を合わせる。 「撃てーッ!」 瓶を持ったモヒカンが中のアルコールを口に含み、たいまつに吹きかけた。飛び散った火炎放射が導火線と点火線を燃やし、薬包を起爆した。 爆音と共に撃ち出されたモヒカンが、次々と城塞めがけて飛んでいった。だが、城塞に届く前に―― 「あわらばぁぁぁ!」 人間砲弾は爆発した。木っ端微塵に花火が舞った。 「…………………………どうやら、導火線の長さが足りなかったみたいだねぇ。いや〜失敗、失敗」 あまりのことに声を失っていたニールは、やっとの思いで声を絞り出した。 「ひとつ、いいか?」 「何だい、ジョーカー?」 「この人間砲弾に、何の意味があるんだ?」 「たぶん、城塞内に兵士を送り込めるところじゃないかなあ」 「普通、着地で死なないか?」 「大丈夫、大丈夫。DG細胞で強化されたモヒカンに、そんな常識なんか通用しないよ」 「あの火炎放射には、何の意味が?」 「カッコイイでしょ」 「そもそも、人間が砲弾を持たなくても、普通に砲弾だけ飛ばせば良いのでは?」 「バカだなぁ、ジョーカー」 ユリウスはチッチッと、人差し指を横に振った。 「それじゃ、人間砲弾にならないじゃないか」 「………………」 ユリウス・フォン・ギュンターは、天災だった。 「さて、仕方ない。そろそろ本気を出そうか」 「おまえ、まだトンデモ兵器を使うつもりか?」 「当然! 今のは前座、これからが本番じゃないか」 もう、どうにでもしてくれ。ニールは自棄気味に天を仰いだ。 ユリウスは、高らかに号令した。 「さあ、デスアーミー隊の皆さん! やっちゃって、ちょーだい!」 何十体もの、デスアーミーが出現した。だが、当然ながら新型だった。というよりは、改装に近い。新たな武器を装備していた。 「なあ……もう突っ込む気も失せたんだが……」 ニールは右手で両眼を覆った。 デスアーミーの股間部分にキャノン砲が装着されていた。しかも、その銃口は微妙に下方向へ曲がっていた。 「これぞ、僕が発明した新兵器『エレファント』だ!どうだい、ネーミングセンスもエレガントだろう?」 「もういい、黙れ……」 デスアーミーが、城壁へ向かって行進した。歩きながら股間からキャノン砲を連射する。 「そーれ、パオ〜〜ン!!」 当然ながら、砲弾は下方へ低伸した。 何十発もの砲弾を喰らい、城壁に次々と穴が空いていった。 「アハハハハハハハハッ! これが本当のションベン弾って奴だよね」 だが、やはり曲がった銃身には無理があったのか、弾詰まりを起こし、そこに次弾が衝突して誘爆するデスアーミーが次々と発生した。 「おゴぉォォごぇぇェェぁぁぁ!!」 何体ものデスアーミーが、股間を押さえて地面を転がり、悶絶した。 「おい……まさか、モビルトレースシステムを搭載してるのか?」 「当然。我ながら見事だね」 「何で、わざわざ搭載したんだ?」 「そりゃあ、もちろん!」 ユリウスは親指を立て、爽やかな笑みで答えた。 「”男”のロマンだからさ! アハハハハハハッ!」 ユリウスの高笑いは最高潮に達した。 「頼む。誰か、こいつを止めてくれ」 ニールは初めて、敵の勝利を願った。 その時、上空で何かが光った。その光弾は、一瞬で地上に舞い降りると、凄まじい嵐となってデスアーミーを蹴散らした。言わずと知れた、シャイニングガンダムである。 「おおっ! やっと来たか」 「チッ、やってくれるじゃないか」 良い気分に浸っていたところを邪魔されて、ユリウスは渋面になり、シャイニングガンダムを見やった。 「貴様らの悪行もこれまでだ。この俺が貴様らを打ち倒す!」 「ふん、やれるものならやってみなよ。しょうがない、この僕が直々に相手をしてやるか。来い! ジェスターガンダム!」 ドリルのように回転して、地中からガンダムが出現した。 型式番号GF13-039NP「ジェスターガンダム」である。高笑いの好きなパイロットには、よく似合う機体だ。 ユリウスが乗り込むと、両者は対になって構えた。 「行くぞ! ガンダムファイト!」 「レディィィ!」 「「ゴォ──────!!」」 両者は同時にパンチの応酬を見舞った。シュピーゲル戦のように、鏡のような動きだった。しかも、その動作はまったく同じ動き、いや、コピーだった。 「こいつ!」 アキラは思わず唸った。 「アハハハハッ! 驚いたかい? 君達のように、単細胞な武闘家の動きなんか、天才の僕にかかれば簡単にコピーできるんだ。それじゃあ、驚かせてあげようかな」 ジェスターガンダムが回転を始めた。コマのように高速回転する。 「これはっ!?」 「喰らうがいい! シュツルム! ウント! ドランクゥゥ!(疾風怒濤!)」 黄色い竜巻が襲いかかり、シャイニングガンダムを吹き飛ばした。 「ぐッ!」 だが、シャイニングガンダムは倒れずに、何とか踏みとどまった。 「アハハハハッ! 僕は天才だ! お次はこれだ!」 ジェスターガンダムが頭部を残して回転した。その場でエネルギーを溜めていく。 「超級! 覇王! 電影弾!」 「クッ!」 シャイニングガンダムは、何とかこれを回避した。一条の閃光が脇を掠めていった。続いて、強大なソニックブームが襲ってきたが、これも何とか凌ぐ。 「よく避けたね。それじゃあ、今度は君の得意技でいこうかな」 ジェスターガンダムのマニピュレータが淡く光った。 「僕のこの手が光って唸る! 君を倒せと輝き叫ぶ! 必殺! シャイニングフィンガァ――!」 ジェスターガンダムの右手が突き出された。一直線に、シャイニングガンダムの頭部へと突き進む。だが、シャイニングガンダムは微動だにしない。突っ立ったままだった。 アキラはその時、師匠の言葉を思い出していた。 「アキラよ」 「はいっ!何ですか、師匠?」 アキラは型の演武を繰り返しながら応えた。毎日繰り返すうちに、すっかり上手くなり、今では師匠であるダイス・ロックリーよりも綺麗になぞることができていた。 「お主は、強くなった。技は申し分ない。体力は年寄りの儂よりもあるじゃろう。このまま精進すれば、儂を越える日も近いかもしれん。じゃがな、お主には足りないものがある」 「はあ……」 アキラはよくわからない、といった感じで、ただ呆けていた。 「真の武闘家に必要なものはな、体技ではない。心なのじゃよ」 ダイスはあごひげに触れながら言った。 「儂は心の修練ができてないばかりに、奈落へ落ちた武闘家を何人も見てきた。思想にかぶれて視野狭窄に陥った者、金や名誉に目がくらんで堕落した者、酒や女に溺れて奈落に堕ちた者。皆、技・体ともに優れた武闘家じゃった。じゃがな――」 ダイスはキッと、アキラを睨んだ。 「彼らには心の修練が足りんかった。おまえには、儂程度で満足して欲しくはない」 アキラは頭を横に振った。 「よく、わかりません」 「いずれ、わかる時が来るじゃろうて。お主がこのまま精進し、強くなれば、必ず試練はやってくる。だが、流派”北方不敗”の継承者が目指すべき場所は、そのような人間の領域を越えた、神の領域にある」 「神ですって?」 「そうじゃ。未だに辿り着いた者はおらん。じゃが、真の武闘家はその境地を目指して日々、精進するのじゃ。儂もかつて、師匠にそう教えられた。決して堕落の道に足を踏み外してはならんぞ」 「わかりました!」 「うむ、それでは修行を続けようかのぉ」 アキラは再び、型の稽古を再開した。 「もらったぁ――!」 ジェスターガンダムのマニピュレータが頭部を捉えたと思われた瞬間、シャイニングガンダムは左マニピュレータでこれを受け止めた。 「先刻から、どれもこれも、俺たち武闘家を愚弄した技を使いやがって」 そのままジェスターガンダムの右手をねじ上げる。 「グァァ――ッ!」 「貴様の拳は、どれもこれも軽い。形は真似できても、魂が入っていない。貴様の技は、劣化コピーですらない。ただのママゴトだ」 「何だって? 天才の僕を愚弄するのか?」 「表面をなぞっただけの技で勝てるほど、俺は弱くない。俺に勝ちたければ、貴様の本当に得意とする技で勝負するんだな」 シャイニングガンダムは手を離した。ジェスターガンダムが後方へ飛び退き、再び構える。 「ふざけるな! 僕は天才だ!」 ジェスターガンダムのマニピュレータが暗いオーラに包まれた。 「まだわからないのか。ならば、容赦はせんッ!」 シャイニングガンダムのマニピュレータが液体金属の輝きを放った。 「俺のこの手が光って唸る!」 「おまえを倒せと嘆き叫ぶ!」 「シャァァイニング! フィンガァァ――!!」 「ダァァ――クネス! フィンガァァ――!!」 両者の必殺技が、真っ向から激突する。だが、ジェスターガンダムのダークネスフィンガーは、あっさりと砕かれ、頭部を掴まれた。 「これで現実が理解できたか。技が強いんじゃない。俺が強いんだ!」 「そんな馬鹿な!? 僕は天才なんだ! 僕は天才だ! アハハハハハハ……ブクダぁ!!」 ジェスターガンダムが砕け散った。 アキラは、今倒した敵について思いを馳せていた。今回の敵は、まかり間違えば自分が陥っていた、外道に足を踏み入れた者だったのかもしれない。 「貴様の不幸は良い師匠に恵まれなかったことだ。俺はいつも、俺より心の優れた師匠に教えを受けてきた」 その光景を背後で眺めながら、いつものように独り言を呟く者がいた。 「天才博士さえも破ったか。やはり、あの男は侮れんな」 最後の最後に、やっと本来の調子を取り戻したジョーカーは、心底から嬉しそうだった。