【世紀末武闘伝 シャイニングガンダム】 Fire氏 第4話「地獄に咲くか爆熱の炎・この世に神はもういない!!」 アキラは師匠の墓前にいた。DG細胞により、地球は死の星と化したが、師匠はそうなった原因をついに突き止め、本体であるデビルガンダム・ジュニアとの戦いに挑んだのである。そして勝利を修め、そのおかげでDG細胞による汚染は食い止められ、かろうじて人類の滅亡は免れた。だが、激しい戦いが師匠の身体を蝕んでいた。やがて師匠は病床につき、帰らぬ人となった。 そして師匠亡き今、アキラの隣には唯一の家族となってしまった最愛の人がいた。 エターナ・フレイル。アキラと同様に師匠に拾われ、共に暮らしていた女性だ。綺麗に整えられた長髪、切れ長の双眼からもたらされる眼差しには慈愛の光が満ちている。ほっそりとした体つきだが、その手には永年の貧しい生活の跡が刻まれていた。昨日まで甲斐甲斐しく師匠の介護をしていたためか、頬はやつれており、疲労がはっきりと見てとれる。それでも、その瞳には、何事にも屈しない強い輝きが宿っていた。 師匠と共に厳しい修練に打ち込み、帰った先にはエターナが待っている。そのような生活の繰り返しが、アキラの知る世界のすべてだった。 「エターナ、こんな時代だ。二人で力を合わせて生きていこう。どんなに苦しい世界でも、俺たちは家族なんだ」 「ええ、アキラ。でも、出発する前にひとつだけ約束してちょうだい」 エターナは、顔前に人差し指を立てて諭すように言った。 「なんだい、エターナ?」 「この先、何があっても絶対に人の道に外れたことはしないと約束して、お願いよ」 「人の道?だけど、こんな時代なんだ。正直、自信がないよ」 「いいえ、アキラ。お師匠様の教えを忘れたの?あなたは普通の人より強い力を持っている。でもね、強すぎる力は危険なの。それを御する強い精神が無ければ、やがては自分自身を滅ぼすことになるわ。だから、何があっても力を悪用したりしないでちょうだい」 アキラはしばらく考え込むように黙っていたが、やがて頷いた。 「わかった、約束する。この力は絶対に悪用しない。それに、元々争い事は好きじゃないんだ。自分の技を極めるのは楽しいんだけどね」 「そう、良かった。それじゃ、行きましょうか」 二人が出発しようとすると、突如、それを遮るように立ちはだかる男がいた。 「久しぶりだな」 「おまえは・・・・・・ギルダー!」 マーク・ギルダー、流派”南方不敗”の使い手であり、アキラとは、頻繁に交流試合をする関係でもあった。ギルダーの師も、アキラの師匠と同じようにデビルガンダム・ジュニアに挑み、戦死していた。 「何の用だ、俺たちはこれから旅に出るんだが?」 「なーに、大した事じゃない。俺はエターナに用があるんだ」 「私に?」 エターナが訝しげな表情になった。 「そうだ。今日から俺の女になれ」 「なっ!?」 「そうすれば、どんな望みでも叶えてやるぞ。今は暴力がすべてを決める世の中だ。力こそ正義!弱さこそが悪!実に良い世の中になったものだ。俺のように強ければ何でもできる」 「貴様、正気か?」 アキラは尋ねた。前から強さに価値を置いている男だったが、ここまで極端な考えでは無かったはずだ。 「俺は正気だとも。むしろお前の方がおかしいのだ。時代の変化に対応できないクズはそれだけで万死に値するが、見逃してやる。エターナを置いて去れ」 「ふざけないで!私はアキラと共に歩んでいきます。あなたの所には死んでも行きません」 ギルダーは、クックと含んだような笑いを浮かべた。 「そうはいかん。帝王となる俺の女にはお前こそふさわしい。力ずくでも連れて行くぞ」 それを聞いたアキラがエターナをかばうように前に出た。 「待て!とりあえず話し合おうじゃないか。以前はそんな事を言うような奴じゃなかったはずだ。一体何があったんだ?」 「話し合いだと?おめでたい奴だ。まだ旧来の価値観でしか物事を考えることができないらしい。言ったはずだ。時代は変わった。欲しい物は力で奪い、気に入らないものは力でねじ伏せる。それが現在においては正義だ。お前も欲しい物があるなら力ずくで奪え。力がないのなら死ね!」 ギルダーは高らかに右手を挙げた。天に向かって人差し指を突き出すと、上空から黒い物体が降下してきた。 「これはっ!?」 「そう、マスターガンダムだ。これこそが俺の手に入れた力だ!」 ギルダーはマスター・ガンダムが下げた両手に飛び乗った。そのままコックピットまで引寄せられ、乗り込んだ。 「そんな馬鹿な!武道を極めし人間がDG細胞に取り込まれるなんて・・・・・・」 マスターガンダムの両眼が光った。 「取り込まれたわけじゃない。俺は正気を保っている。その証拠にゾンビ兵にはならなかったぞ。だが、以前よりも遙かに強靱な肉体を手に入れることができた。これこそが選ばれた人類の進化だ!神はついに人類の選別を決断されたのだ!」 「狂ってる・・・!」 アキラは吐き捨てるように言った。 「そうでも無いぞ、勝てば正義だ。実際に俺が勝てば、その正しさが証明される。唯一最強のナンバーワンのみがすべてを手に入れるのだ。それがこの大陸のルールだ。さあ、ガタガタ言わずにかかってこい!」 「エターナ、下がっていてくれ。こいつを一度ぶん殴って目を覚まさせてやる。力を悪用する奴を倒すのは、力の悪用じゃないはずだ」 「わかったわ、気をつけてね」 エターナが走り去ると、アキラは右手を掲げ、指を鳴らした。 「でろぉぉぉ――!ガンダァ――ム!!」 一機の白いMFが雲間から飛行して現れ、アキラの付近で地上に降り立った。 「頼むぞ、ゴッドガンダム!」 師匠がギアナ高地の戦いで使用した機体だった。アキラはコックピットに乗り込み、モビルトレースシステムを稼働した。 「こ・・・これは!?」 ファイティング・スーツで身体を覆ったアキラは、すぐさま異変に気づいた。マニピュレータ、関節部の稼働などがしっくりこないのだ。コックピット内部の空間表示スクリーンには、各所に軽度のエラー表示が出ていた。 「そうか・・・整備なんてする部品も道具も無かったからな」 だが、動けないわけではない。一回分の戦闘くらいなら耐えられるだろう。アキラは身構えた。長期戦をやれるだけの機体の耐久性はない、となれば一気に片を付けるしかない。 アキラの顔から険しさが消え、まるで釈迦のような慈愛の表情になった。水のように澄んだ心を保ちつつ、両手で印を結んだ。明鏡止水のハイパー・モードである。 「いくぞ!流派”北方不敗”の名のもとに!俺のこの手が真っ赤に燃える!」 ギルダーは嬉しそうな高笑いと共に、これに応じた。 「勝利を掴めと轟き叫ぶ!」 「ばぁーく熱!ゴォォォッド!フィンガァァ――!!」 「ダァァ――――クネス!!フィンガァァ――!!」 ゴッドガンダムとマスターガンダムのマニピュレータが、ガッチリと組み合った。真っ赤に燃える熱き神掌と、暗黒よりも尚昏き闇掌が正面からぶつかり合う。 「ぐぅッ!!」 「クァァ!!」 お互いが譲らない。押し返し、押し返されを繰り返しながら、永劫にも続くかと思われた瞬間、マスターガンダムの左腕に変化が生じた。 手首の部分に亀裂が刻まれ、やがてそれが決壊したダムのように広がり、肩ごと粉砕したのだ。 「チッ!やるな」 「観念しろ。これで貴様の負けだ。潔く立ち去れ!」 だがマークは、クックックと嘲りの混じった嘲笑で応えた。 「甘いことだ。もう勝った気でいやがる。だがな・・・ふん!」 「なにぃ!?」 マスターガンダムの腕が再構成され、あっという間に元どおりになった。マークは得意げに左腕を振り回すと、再び必殺の構えをとった。 「これが俺の新たな力だ。どうだ、これでもお前は俺に勝てるつもりか?」 「クソッ!」 再び両者の必殺技が炸裂した。再び押し合いになったが、今度はゴッドガンダムに異変が起こった。 スクリーンには、随所にエラーの警告音が表示され、ついにゴッドフィンガーのエネルギー供給が断線したのだ。 「しまった!?」 右腕を破壊されたゴッドガンダムはダークネスフィンガーをまともに喰らい、頭部を鷲掴みにされ、吹き飛ばされた。 「ぐわぁぁぁ〜〜!」 加えてマスターガンダムの回し蹴りが腹部にヒットし、破壊されたコックピットごとアキラは大地に投げ出された。 ギルダーはコックピットから降りると、倒れたアキラの顔面を踏みつけにして言った。 「ひとつ、良いことを教えてやる。お前と俺とでは致命的な差がある。それはな、執念、勝利への渇望だ。貴様にはその執念がない。最初に俺の技を破ったとき、俺に情けを与えたな。それが決定的な差だ。敵を殺す覚悟もない甘ちゃんが、俺に勝てる道理がない。何が明鏡止水だ。何が水の心だ。そんな悟ったような気になって、調子にのってるクズの諦めの境地で手に入れられるものなど有りはしない!この世で最強を決めるのは、圧倒的なまでのパワーとスピードとタフネスだ!さあ、そろそろ死ぬか」 ギルダーは、アキラを空中高く蹴り上げた。腰を落とし、右掌を上空に突き出して構える。 「流派”南方不敗”が最終奥儀!石破ッ!天驚拳!!」 右手の形をした気の塊がアキラの胸に突き刺さった。衝撃でアキラは吹き飛ばされ、2回転3回転して地面に叩きつけられた。 「フハハハハハハ!いい気味だ。だが、まだ息があるようだな。それでは、もう一発喰らわせてやる」 とどめを刺すべく近づいたギルダーの前に、立ちはだかった者がいた。 「お願い、もうやめて。充分でしょう、あなたの勝ちです」 「エターナか、どけ!心配しなくても、奴を殺した後で俺の女にしてやる。身の程をわきまえない弱者は死ぬのが当然なのだ」 「いいえ、どきません。あなた程の人が、直接手をかけなくても、あのような弱い男はすぐに野垂れ死ぬでしょう」 「エ・・・ターナ・・・!?」 アキラは倒れ伏しながら、信じられないという顔でエターナの方を仰ぎ見た。 「フハハハハハ!そうかそうか、それもそうだな。あんなゴミは放っておいてもすぐに死ぬ」 「ええ、あんな弱い男に用はありません。さあ、早く行きましょう」 「わかったわかった。まったく、女の心変わりは恐ろしいな、アキラよ」 「待・・・て・・・」 エターナは、去る前に一瞬だけ、アキラの方を振り返った。だが、すぐに無表情のまま顔を背けた。 やがて彼女は、ギルダーの乗るマスターガンダムの両手に乗せられながら、飛び立っていった。 アキラは大の字に寝転がりながら空を見上げた。すでに両眼からは熱いものが、止めどなく流れていた。 「チクショォォォ──────!!」 血の涙か、空に赤いものが浮かんで視えた。