【失われた第06MS小隊】 463氏 宇宙世紀0079年10月東南アジア戦線 当初はジオン有利で進んでいた戦争も、連邦軍がMSを戦線に投入すると 次第に一進一退のこう着状態に陥っていった。 「がんばれよ〜06小隊!ヘナチョコ07小隊に負けんじゃねぇぞ!」 「ジダン!貴様またワシらで賭けをやっとるのか!」 慌しいMSの出撃準備中の基地内に、酔払いとダミ声の怒声が響く。 「ホレホレ〜ガルン。早くせんと07小隊に遅れをとるぞ〜」 「くっ後で覚えておれよ。06小隊出るぞ!!」 大型輸送機ミデアが、鬱蒼と茂る密林の上を悠々と飛び立っていった。 「ミノフスキー粒子の濃度が高くなってきたな」 次第にレーダー機器が役に立たなくなり、 ここがジオンの勢力圏内だという事を嫌でも思い知らされる。 「もうすぐ降下ポイントだ。総員降下用・・・」 今まさに機首を下げ、予め予定されていたポイントに 強行着陸をしようとした時に、機体が激しく揺れ 主翼の先端が吹き飛んだ。 「な、なんだ!?敵襲か?」 幸い自動消化装置により火災はすぐに消えたが、 もはや高度を維持することも出来ず胴体着陸するより他になかった。 「総員退避!!」 巨大なコンテナブロックがクッションの役目をしたため機体が直ぐに炎上する事はなかったが、 中のMSはとても戦闘に耐えれる物ではなかった。 「くっ宿営地に支援要請を打て!それまで持たせるんだ」 「全機密集してあの高台まで退避するんだ!反撃はせずに回避に専念しろ!!いいか救援が来るまでなんとしても生き残れ!」 砲弾が飛び交う中、衝撃で歪んだコンテナを、 搭載していた陸戦型ジムで内部から押し広げさせ、 自らは半壊したホバートラックに飛び乗り脱出する。 「しかし機長このままじゃ・・・」 「ええい弱音を吐くな!死にたくなけりゃ言う通りにしろ!さっさとせんか。救援部隊が来るまでの辛抱だ!」 戦意を失い弱気になったパイロット連中に活を入れる。 着陸時のショックは脚部に致命的な損傷を与えており、とてもじゃないがMSでの格闘戦など出来そうにない。 そこで高台に移動し敵の射撃にのみ対応する事にした。 高台の頂上で辺りを見渡すと、自分達が敵陣のど真ん中で孤立していることがわかった。 陸上用に改修されたザク数機が、鈍く光るマシンガンを片手にゆっくりと追撃をかけているのが見える。 半壊しもぬけの殻と化したミデアには見向きもしない。 「近づけさせる訳にはいかんな。それに奴等に一泡ふかせんと死んでもしにきれん。ミデアが死んだと思ってるかもしれんがそうはいかん」 指揮車能力付加によって各種電子戦装備を強化したホバートラックは、近距離なら友軍機に介入・支援が出来るようになっている。 「そうだもっと近づけ…今だ!!」 ザクがミデアを通り過ぎた瞬間、今まで沈黙していたミデアの対空機銃が、遠隔操作により一斉に火を噴きザクを襲う。 「ジオンめ思い知ったか!」「俺達だってまだ負けちゃいねぇぞ!」 MSパイロットから歓声があがる。弱気だった気力も 正常に戻ったかに見えた・・・・・・だが。 「「「「な・・・」」」」 機銃弾はザクの肩部シールドに阻まれ、その身を僅かに振動させただけだった。 すぐさま別のザクが脚部に装着した連装ロケット弾ポッドから3発のロケットを発射する。 轟音をあげながら激しく炎上するミデアをモノアイで確認すると再び進撃を開始する。 「ダ………ダメだ!もう機体がもたねえ!機長このままじゃやられちまう!」 「うひぃぃぃッ!!なんだかピンチみたいなこのオレさまぁぁぁッ!!」 「ちょっとちょっと………このままじゃあやられちゃうって!」 喜びから一転再び弱気になるパイロット達。 「落ち着けお前達!!」 ともすれば混乱しそうなパイロット達を一喝する。 「でででででもどうすすすするんですか機長!」 「ワシ等このままじゃギッタンギッタンディスヨ〜」 「ええい、それを今考えとるんだ!」 一瞬、散財した酔っ払い親父の顔が頭に浮かぶ。 万策尽きた今ではザクの進行を止めるすべは無い・・・ 筈だった。 「来ませんね?」 依然銃弾は飛び交っているが、ザクはそれ以上進む事はなく、モノアイを左右に動かすでけで一定の距離を保ったままだった。 「・・・どういうつもりだ?」 「機長もしかして奴等はまだワシ等が罠をしかけちょるんじゃないかと勘違いしてるんじゃないですか?」 「それだ!なら機長なんとかなるかもしれねぇぞ!」 「でかしたイワン!」 「だぁはっはっはもっと褒めて褒めて。ジオンのなへなちょこな弾なんぞ、………エイっとカレイにサケてヤリイカ!」 「こら調子に乗るな!状況が解決したわけじゃないんだぞ!」 「ほれほれほれほれあたりはせん!あたりはせんぞ〜」 「おおおおおおいいいいいぞイワンンンン!ひゃぁーッはっはぁ!!無駄無駄無駄ぁぁぁ!!」 ガルンの忠告に耳を貸さず、ザクマシンガンの攻撃を紙一でかわすイワンとドク。しかもご丁寧にも外部スピーカーのボリュームを最大にしてだ。 「機長ちょっと気になったんけどよ・・・」 「・・・なんだ?」 「なんだか敵の攻撃が厳しくなってきたというか、鬼気迫るものがあるいうか・・・」 「お前もそう思うか?」 度が過ぎたイワンとドクの挑発にザク部隊の怒りも頂点に達し、ここが最終決戦とばかりにありったけの銃弾をぶつけてきた。赤く光るモノアイからは絶対殺すというオーラが伝わってくる。 「こりゃマジでやばいぜ」 「イワン、ドクあまり目立つな!狙われるぞ!・・・おい貴様等ワシの話を聞け〜〜〜!!」 「機長あんまり大声出すとあんたもやられるぞ!ってなんで機長までスピーカー全開なんだよ!!」 「だぁぁぁぁ!コルトそれを早く言わんか!」 戦場に響いたダミ声に銃弾が集中する。 戦闘の基本は指揮系統を潰すか、敵の最も弱いところから潰す事だ。そしてホバートラックは残念ながら両方を兼ねそろえている。 元々ホバートラックは戦域でのミノフスキー粒子の散布や指揮・音紋探知等に特化されているため戦闘能力が皆無に等しい。申し訳程度に対歩兵用の機銃が付いてる程度だった。 本来は後方の安全地域にて、部隊全体を管理するのが任務だ。 だから今回のように敵陣のど真ん中で銃弾の雨にされされるなんて事は全くの想定外である。 ザクマシンガンはホバートラックの薄い装甲を簡単に突き破る。 「ここまでか………みんな………すまん!……だっ脱出する」 電子機器からパチパチと火花が上がる車内から脱出した。離脱してすぐにイワン機の足元に隠れる。 数秒後に盛大な火柱を上げてホバートラックが爆発し、あたりに破片が降りまく。 「「「き…機長〜〜!」」」 「大丈夫だ…それよりお前等こそ気をつけろ!敵は勢いづいてるぞ。集中するんだ」 ガルンの叫びも空しく、母機を失い更に指揮車を失って大混乱に陥った部隊に容赦なくザクマシンガンが降り注ぐ。 元々大破していた機体にこれ以上の抵抗は不可能で次々に被弾していく。 シールドを持った左手が肘ごと持っていかれ、頭部は吹き飛ばされて後方に転がっていく。 幸いコクピット付近に命中弾は無くパイロットは無事だったのが唯一の救いだ。 「………なにいッ!?オ………オマエなんか大嫌いだァァァァァッ!!」 「と………時が見えるような気が………するかもしんないかもぉぉぉッ!」 「………ったくやってらんねーなァ!」 「お前等早く降りろ!もうその機体は持たないぞ!こっちに来るんだ」 MSのハッチが開き次々と数メートル下に飛び降りる。 ジャングル特有の落ち葉や湿気た土壌がクッションになった為みんな骨折する事無く無事着地した。 そして一目散にガルンが待つ岩陰へと走る 「急げこっちだ!」 「し…死ぬ〜〜もうだめだぁぁぁぁぁ〜〜」 「ここで死んだら絶対化けて出てやるぅぅぅ」